2026年07月07日

AI Connectivityで競合に差をつける。エージェントAI時代に必要なデータパス統合の視点とは

2026年5月14日、福岡で開催された「Kong AI Connectivity Day in Fukuoka」において、Kong株式会社 代表取締役社長の有泉大樹が登壇しました。講演テーマは「AI Connectivityで競合に差をつける——エージェントAI時代に必要な統合API/AIプラットフォーム」です。

生成AIやAIエージェントの活用は、実験やPoCの段階から本番稼働の段階へ移行し始めています。その中で企業に求められるのは、AIを導入することだけではありません。AIがアクセスするデータ、API、イベント、LLM、MCPサーバー、エージェント間通信をどのように統合し、可視化し、統制するかが重要な経営課題になっています。

本講演では、AI Connectivityがなぜ経営課題なのか、AI本番化を阻む構造的な問題は何か、そしてKongがどのようにAIのSpeed・Cost・Riskを同時に管理するのかが語られました。

目次

AI投資の壁はPoCではなく「本番化」にある

AIエージェントの活用にはデータパス全体の統制が必要

AI本番化を阻むフラグメンテーション問題

データパス全体を統合・可視化・統制する「Kong AI Connectivity」

統合基盤として全ライフサイクルを支える「Kong Konnect」

顧客事例に見る、AI本番化に必要な3つの要素

データパス全体の統合が企業競争力を左右する時代

AI投資の壁はPoCではなく「本番化」にある

有泉はまず、エージェントAIが企業競争の前提を変え始めていると説明しました。講演で紹介されたKong Customer Advisory Boardに参加するCTOの言葉は、その変化を端的に示しています。

「競合に先を越されるという恐怖が、エージェントAI時代を定義してくる。」

これは将来予測ではなく、すでに起きている変化です。講演では、従来の開発者が10日間かけていたコード移行作業をAIエージェントが2時間でこなし、30分かかっていたPRレビューを2分で完了する例が紹介されました。

有泉はこの変化を「手工業から産業革命へのシフト」と表現。手工業者がどれだけ勤勉に働いても、機械による生産速度には追いつけなかったように、AIに乗り遅れた企業は、人間の努力だけで差を埋めることができません。AIをどう本番環境に組み込み、業務やサービスの中で安定的に活用するかが、今後の企業競争力を左右します。

一方で、AIに投資すればすぐに成果が出るわけではありません。有泉は、AI投資の現実として、成果に至らないAIイニシアチブの多さ、AI関連コストの増大、シャドーAIによるセキュリティリスクを挙げました。

講演では、95%のAIイニシアチブが成果に至らないというデータが紹介されました。ここで重要なのは、失敗の多くがPoCや実験段階で起きているのではなく、本番化の段階で起きている点です。

AI活用にはスピードが欠かせません。しかし、スピードだけを追求すると、LLMトークンの消費量やAPIトランザクションのコストが見えなくなり、未管理のAI利用が広がります。その結果、コストが粗利益を圧迫し、セキュリティ侵害のリスクも高まります。

そのため企業には、Speed(速度)だけでなく、Cost(コスト)とRisk(リスク)を同時に管理する仕組みが必要です。有泉は、この3つを同時に扱うことがAI本番化の前提条件だと説明しました。

AIエージェントの活用にはデータパス全体の統制が必要

次に有泉は、AIエージェントの本番活用に欠かせない「AIデータパス」の考え方を説明しました。

AIデータパスとは、ユーザーのリクエストがAIエージェントを通じて処理され、結果として返ってくるまでのデータの経路全体を指します。本番環境では、次の4つの層が順番につながって初めて正しく動作します。

  • AIアプリ・エージェント
    ユーザーが直接触れる入口
  • LLM
    AIの「頭脳」にあたる層
  • MCPサーバー
    エージェントが外部の情報やツールを呼び出すための標準インターフェースを提供する層
  • API・イベント
    実際のデータが流れるデータソース

多くの企業は、LLMやAIアプリに注目します。しかし、AIエージェントが価値を発揮するには、LLMだけでなく、MCPサーバー、API、イベントまで含めたデータの流れを制御する必要があるのです。

有泉は、Kongの核心的な主張として次のように述べました。

「MCPサーバーを制御するには、APIを制御しなければいけません。APIを制御しなければ、エージェントは正しく動かないのです。」

MCPサーバーはコンテキストを扱いますが、そのコンテキストの源泉はAPIやイベントです。静的なデータはAPIから、リアルタイムの判断材料はAPIやイベントストリームから供給されます。APIを制御できなければ、MCPサーバーは正しく機能せず、結果としてエージェントも正しく動きません。

さらに、エージェント同士が通信するA2A(Agent-to-Agent)通信が加わることで、データパスはより複雑化します。この複雑なデータパス全体を可視化し、統制するプラットフォームが、エージェントAI時代には不可欠です。

AI本番化を阻むフラグメンテーション問題

AIデータパスの複雑化に伴い、多くの企業でフラグメンテーション、すなわち断片化の問題が深刻化しています。AI関連ツール、ゲートウェイ、運用ポリシーがチームや環境ごとに乱立すると、コスト、セキュリティ、開発速度のすべてに影響が及ぶのです。

有泉は、フラグメンテーションが引き起こす問題を3つに整理しました。

1つ目は、コスト管理が不可能になることです。LLMトークン、APIトランザクション、イベント処理のコストが各環境に分散すると、統合的な可視性が失われます。可視性がなければ、FinOpsは機能しません。

2つ目は、ガバナンスとセキュリティに空白が生まれることです。データがAIトランザクション全体でどのように流れているかを把握できなければ、異なる環境をまたぐたびにリスクが増大します。

3つ目は、イノベーション速度の低下です。複数のゲートウェイ、複数のチーム、複数のポリシーが存在すると、開発者は本来取り組むべきビジネス価値の創出に集中できません。

有泉は「コスト・セキュリティ・スピード——これが今、AI本番化を阻む根本原因です」と語りました。

データパス全体を統合・可視化・統制する「Kong AI Connectivity」

こうした課題に対するKongの解決策が「Kong AI Connectivity」です。有泉は、Kongがデータパス全体を統合・可視化・統制する唯一のプラットフォームであると説明しました。

Kong AI Connectivityは、AIエージェント時代に必要な5つの制御ポイントをカバーします。

  • エージェント→ LLM:AI Gatewayでトークンコストを管理
  • エージェント → MCPサーバー:MCP Gatewayでコンテキストを統制
  • MCPサーバー → API:API Gatewayでデータアクセスを制御
  • MCPサーバー → イベント:Event Gatewayでリアルタイムデータを制御
  • エージェント → エージェント:A2A通信を可視化・制御

Kongの強みは、AWS、Azure、GCP、オンプレミスを問わず、ハイブリッド・マルチクラウド環境で提供できる点です。AI、API、イベント、メッシュを単一のコントロールプレーンで管理することで、ツールが点在する状態から脱却し、企業全体で一貫したガバナンスを実現します。

さらに「Kongが提供する価値は、Speed・Cost・Riskの3つの軸で整理されます」と有泉。

Speedの面では、AIリソースの設計、テスト、デバッグを一元化。APIオンボード時間を最大3倍短縮し、MCPサーバー対応によって新しいAIモデルの追加もコードレスで実現します。開発者はセルフサービスポータルを通じて必要なAPIを探し、自律的に利用できます。

Costの面では、LLMトークンの消費をリアルタイムで可視化し、上限設定にも対応。インテリジェントルーティングにより、高コストなモデルへのリクエストを最適化し、LLMコストを削減します。さらに、AI利用コストを部門やチームごとに内部チャージバックする仕組みも提供します。

Riskの面では、アクセス制御と認証をデータパス全体で統一。PII(個人情報)の検出、プロンプトへのガードレール設定、全AIトラフィックのログ取得により、コンプライアンスを確保します。未管理のシャドーAIを排除し、セキュリティ侵害の未然防止にもつなげます。

有泉は「Speed・Cost・Risk——この3つを同時に管理できることがKongの最大の価値です」と強調しました。

統合基盤として全ライフサイクルを支える「Kong Konnect」

講演では、Kongの統合プラットフォームである「Kong Konnect」も紹介されました。

Kong Konnectは、APIからAI、イベント、メッシュまでをカバーする統合プラットフォームです。BUILDフェーズではKong InsomniaでAPIの設計とテストを進め、Dev Portalで開発者が自律的にAPIを探して利用できます。RUNフェーズでは、API Gateway、AI Gateway、Event Gateway、Service Meshがデータパス全体をカバーします。さらに、DISCOVER、GOVERN、MONETIZEの領域まで、一貫したプラットフォームで対応します。

有泉は「ツールが点在するのではなく、一つのコントロールプレーンで全体を管理できる。これが『統合』であることの本質です」と説明しました。

AIエージェント時代は、個別最適のツールを積み重ねるだけでは、本番運用に必要な可視性と統制を確保できません。Kong Konnectは、企業がAIを本番環境で安全に拡張するための統合基盤として機能します。

顧客事例に見る、AI本番化に必要な3つの要素

講演の後半では、Kongの顧客事例としてH&MとPrudentialの取り組みが紹介されました。

H&Mでは、LLM導入がチームごとに分散し、十分に管理されていない状況がありました。セキュリティやコンプライアンスのリスクは深刻化し、コスト管理や可視性にも課題を抱えていたのです。

そこでH&Mは、全AIワークロードを「Kong AI Gateway」に統合。トークン消費の可視化とレート制限によりコスト管理を実現し、100%集中ロギングによりコンプライアンスを達成しました。

その結果、AIサービスのオンボード時間は数週間から数日に短縮。トークン消費の財務可視性も、即時に得られるようになりました。

Prudentialの事例では、50以上の事業部門がLLMを必要としていました。各部門が独自にAI Gatewayを内製すると、構築・維持コストが膨大になり、モデル変更のたびにエンジニアリング工数が発生します。加えて、セキュリティの標準化も困難でした。

Kongを採用することで、内製ソリューションは不要になり、新モデルの追加もコード変更ゼロで実現しました。LLMアクセスのセキュリティも全事業部門で標準化され、API、メッシュ、AI、KIC(Kong Ingress Controller)を統一プラットフォームで運用する全社的なAIガバナンス基盤として機能しています。

有泉はこれらの事例から、企業が詰まるAI本番化のフェーズで大事なこととして「可視性・ガバナンス・スケーラビリティ」の3つを示しました。

  • 可視性:誰が・何に・どれだけAIを使っているかが見えること(H&Mのトークン消費の財務可視性)
  • ガバナンス:全部門・全ワークロードにセキュリティとコンプライアンスの標準ルールを適用できること(Prudentialの全社AI基盤)
  • スケーラビリティ:部門や利用量が増えても、コード変更や作り直しなしに拡張できること(Prudentialの新モデル追加ゼロコード変更)

データパス全体の統合が企業競争力を左右する時代

講演の締めくくりで、有泉は「なぜKongなのか、なぜ今なのか」を整理しました。

Kongは、6,000社以上の企業顧客に利用されており、API、AI、イベント、メッシュを単一のコントロールプレーンで管理する統合プラットフォームを提供しています。MCP Gatewayにも対応し、AWS、Azure、GCP、オンプレミスを問わず、ハイブリッド・マルチクラウド環境に展開できます。

有泉は参加者に対し、次の問いを投げかけました。

  • 貴社のAIデータパスは、誰がオーナーシップを持っていますか?
  • コスト・セキュリティ・コンプライアンスを横断的に管理している組織はありますか?
  • 現在どのゲートウェイやツールが使われており、どこに重複がありますか?
  • 本番AIの実現を最も阻んでいる課題は何ですか?

AIエージェント時代の競争力は、LLMを選ぶだけでは決まりません。AIアプリ、LLM、MCPサーバー、API、イベント、A2A通信を含むデータパス全体をどのように統制するかが、AI本番化の成否を左右します。

有泉は最後に、次のように述べました。

「エージェントAI時代はすでに始まっています。データパスの統制を後回しにすればするほど、技術的負債と競争劣位が積み上がっていきます。」

Kongは、AI Connectivityを通じて、企業がSpeed・Cost・Riskを同時に管理し、AIを本番環境で活用するための基盤を提供します。AIを企業競争力に変えるためには、個別のツール導入ではなく、データパス全体を統合する視点が不可欠です。