FWD生命のDX推進基盤とAPI戦略 〜レガシーからの脱却と“クラウド100%”の実現に向けて〜
2025年11月12日に開催されたKong主催イベント「Kong API Summit Japan 2025」。
そのユーザー事例セッションに、FWD生命保険株式会社 執行役員 兼 CTOの金田龍二氏が登壇。「生命保険業務を支えるDX推進基盤とアーキテクチャ導入」と題して、同社のDXの軌跡とマイクロサービス・API基盤の取り組みを共有しました。

保険業界におけるDX推進基盤の必要性
セッションの冒頭、金田氏はまず同社が目指すビジョンについて語りました。
FWD生命は1996年に設立され2026年に設立30年を迎えます。2017年にアジア10の地域で生命保険事業を展開しているFWDグループの一員となりました。
同社のビジョンは「人々が抱く保険に対する感じ方・考え方を刷新すること」。ブランドスローガンとして「Celebrate living(人生を讃えよう。)」を掲げ、保険をより前向きで身近な存在にしていくことを目指しています。
金田氏は「『保険=万が一のときにだけ思い出すもの』というイメージを変えたい」と述べ、このビジョンを支える基盤としてDX推進が位置付けられていると説明しました。

ではなぜ今、DX推進基盤が必要とされているのでしょうか。金田氏は業界特有の事情を交えて解説します。
「生命保険の世界は、どうしても保守的でガチガチな業界だと言われます」と金田氏。長期にわたる契約、膨大な紙書類、複雑な事務プロセス、法令・規制対応など、変化が生じにくい要因が多く存在するからです。一方で、少子高齢化や顧客ニーズの多様化、デジタルチャネルの普及により、保険会社にはスピーディーな商品提供やサービス改善が強く求められています。
「中堅規模の生命保険会社が競争していくためには、とにかくスピードが重要です。しかし、レガシーなシステムと紙ベースの業務運用だけでは、そのスピードについていけません」と金田氏は強調します。
同社では、DX推進基盤に期待する役割として、主に次の4点を掲げました。
- Time to Market(TTM)の短縮:新商品の投入やサービス変更の迅速な対応
- DXによる業務改善:紙中心の業務からデジタルへのシフトによる業務効率化
- コストの適正化:ペーパーレス化によるコスト削減とコンプライアンス強化
- 外部サービスの有効活用:競争優位の源泉となる柔軟なサービス提供能力の確保
これらの要件を満たすための土台として、クラウドを前提としたDX推進基盤の構築に踏み切った経緯が説明されました。

レガシーシステムから“クラウド100%”への軌跡
2017年、FWDグループ入りを機に、同社は「レガシーからの脱却」と「DX推進基盤の構築」を明確な方針として掲げます。基幹の契約管理システムを含む主要システムについて、「クラウドを前提に再設計する」という大きな決断を下しました。
その後、2018年以降は、個別システム単位でクラウド移行と機能刷新を段階的に実施。基幹系だけでなく、営業支援や顧客向けWeb・モバイルチャネルなど、フロント系システムのクラウド化も推進しています。
金田氏は「現時点では、ほぼすべての業務システムがクラウド上で動いている状態」と述べ、いわば“クラウド100%”に近い状況になっていることを強調。
さらに、この取り組みが評価され、IT協会主催の「IT奨励賞(顧客・事業機能領域)」を2023年から2年連続で受賞。「外部からもDXへの取り組みを認めていただけている」と振り返りました。
このクラウド移行の延長線上に位置付けられているのが、次に紹介するマイクロサービスとAPIを中核としたDX推進基盤です。

モノリシックからマイクロサービスへのアーキテクチャ変革
クラウド移行の中核を担ったのが、システムの構造そのものを変えるアーキテクチャ改革です。
従来のシステムでは、契約管理、支払、住所変更といった業務ロジックがアプリケーションごとに実装されており、機能が重複していました。別のアプリケーションからそのロジックを再利用したくても、直接呼び出すことが難しい構造になっていたと言います。
「アプリケーションの中に閉じていた業務機能を、マイクロサービスとして切り出し、APIを通じてどこからでも利用できるようにしました」と金田氏は説明。住所変更や支払といった代表的な機能は、チャネルやシステムを問わず共通で使えるように設計され、再利用性が向上しました。
インフラ層では、コンテナプラットフォーム上にマイクロサービス群を展開し、その前段にKongのAPI Gatewayを配置。モバイルアプリや社内アプリケーションなど、各種フロントエンドからのリクエストはAPI Gatewayを経由してマイクロサービスに到達し、バックエンドでコアシステムやデータベースと連携する構成です。

ESB廃止とAPI中心モデルによる拡張性の確保
さらに金田氏は、システム間連携の要となる通信方式の刷新についても言及。以前採用していたESB(Enterprise Service Bus)からAPI中心の構成に移行しました。
以前はESB上に約50のアプリケーションがぶら下がり、それぞれがESB固有のコードや設定に依存していました。その結果、拡張性やスケーラビリティに課題があり、新しいサービスやチャネルを追加する際の柔軟性にも限界があったと言います。
金田氏は「ESBを残したままでは、本当に柔軟なアーキテクチャにはなりません。思い切ってAPI連携に全面移行し、ESBを廃止する方針を取りました」と語ります。
現在は、コアシステムやデータソースとマイクロサービスがAPIで接続され、その上にAPI Gatewayが載る構造に再編。これにより、システム間連携の経路がシンプルになり、負荷分散やスケールアウトもコンテナとAPI Gatewayの組み合わせで対応しやすくなりました。

社員主体で推進した「自分たちの基盤づくり」
技術的な刷新と並行して重視されたのが、それを支える「人」と「組織」の変革。「新しい技術を入れるだけではDXは進みません。社内の理解と協力を得ながら進めていくことが重要です」と金田氏は語ります。
クラウド、コンテナ、マイクロサービス、APIといった領域は、当初、社内に十分な知見があったわけではありませんでした。そこで、IT部門が中心となって各部門に対する説明やロビー活動を継続し、業務部門を含めた横断的な連携体制を構築しました。
パートナー企業からの支援も得つつ、設計・構築・運用の多くを社員自らが手掛けた結果、社内にはマイクロサービスやクラウドのエキスパート人材が育ちました。金田氏は「社員主体で進めたからこそ、『自分たちの基盤』としての愛着と責任感が生まれた」と述べ、単なるシステム刷新にとどまらない組織変革の側面を示しました。
成果:Time to Marketの短縮と業務効率化
こうした一連の取り組みは、具体的なビジネス成果として表れています。
まず挙げられたのが、Time to Marketの短縮です。マイクロサービス化された業務機能をAPIとして再利用できるため、新しいチャネルやサービスを追加する際、ゼロから機能を作り込む必要がありません。「以前であれば数ヶ月を要していたような変更が、格段に早く出せるようになりました」と金田氏は手応えを語ります。
また、紙ベースだった各種手続きのオンライン化・ペーパーレス化が進み、事務処理の効率が向上。入力の重複が削減され、顧客接点のデジタル化も加速しました。これらは顧客体験の向上だけでなく、バックオフィスの負荷軽減にもつながっています。
基盤側では、ESB廃止とコンテナ・API Gatewayの組み合わせにより、性能・拡張性の面で余裕が生まれました。アクセス増加時にも弾力的にスケールできるようになり、今後のサービス拡大に向けた準備が整った形です。

API外部公開による新たなビジネスエコシステムの創出
セッションの終盤、話題はDX推進基盤を活用した未来の展望へと移りました。
マイクロサービスとAPIとして切り出した機能は、社内利用にとどまらず、外部パートナーとの連携にも活用できます。金田氏は「社内向けに整備してきた機能を、APIとして外部にも提供できるようにすることで、新しい保険エコシステムの一部を担えるのではないか」と展望を語りました。
例えば、他業種のサービスと保険商品を組み合わせた「組み込み型保険」や、ライフログデータと連携した新しい保障・サービスなど、APIを通じた連携の可能性は拡大しています。DX推進基盤とマイクロサービスアーキテクチャは、こうした外部連携を迅速かつ安全に実現するための土台となります。

まとめ:DX推進基盤は新しい保険のあり方を支える“土台”
最後に金田氏は、今後の決意を語り、セッションを締めくくりました。
「FWDは比較的若い保険グループです。その分、レガシーに縛られず、新しい技術を積極的に取り入れていくことをミッションだと考えています。今回ご紹介したDX推進基盤とアーキテクチャの取り組みも、その一環です。」
その上で、「ここまで来られたのは、社内メンバーの努力と、Kong社をはじめとしたパートナーの皆さまの支援があってこそです」と謝意を表明しました。
生命保険業務という複雑で変化しづらい領域において、レガシーからの脱却、クラウド移行、マイクロサービス化、API中心のアーキテクチャへの移行を一気通貫で進めてきたFWD生命。DX推進基盤は、単なるシステムの近代化にとどまらず、新しい保険のあり方を支える“土台”として、今後も進化を続けていくことが期待されます。
オンデマンド配信のご案内
当日のセッションの様子は、オンデマンド配信にてご覧いただけます。ご参加いただけなかった方や、改めて内容を確認したい方は、ぜひ下記リンクよりご視聴ください。